2 論文の概要の一部は、既に、国立遺伝学研究所の斎藤成也先生、国立科学博物館神澤秀明先生の東京と出雲における報告会で報告されていますが、論文では、詳細な分析結果が示されています。
3 猪目古代人骨を、主成分分析によって、東アジアの現代人・古代人と比較した結果=猪目2体は、現代日本人の分布の範囲内となりました。
※他方、F4-statisticsでは、渡来系との混血が充分に進んでいなかったことが明らかになりました。
4 尚、小浜洞窟の人骨(縄文時代後期)からそれぞれミトコンドリアの抽出に成功(小浜も縄文人骨の核DNA抽出は試料の状態が悪く困難な模様)、そのハプログループが、関東・東北の西日本系のものであったことから、今後、従来の仮説の再検討が進むものと思われます

htpps://readyfor.jp/projects/izumo17990
核DNA抽出・解読成功
出雲市 猪目洞窟
弥生~古墳時代の古代人骨
(出雲市弥生の森博物館所蔵
写真も同博物館提供)
ミトコンDNADNAのみ
松江市 小浜洞窟
縄文後期の古代人骨
(島根県教育委員会所蔵)
古代出雲人(猪目洞窟)のDNA的特徴
― 猪目洞窟遺跡出土人骨の分析成果並びに出雲・薩摩の遺伝的近縁性 ―
プロジェクトチーム事務局
東京いずもふるさと会は、古代出雲人のルーツを求め、2018年、クラウドファンディングを利用して、旧平田市猪目の黄泉の国の入り口として有名な猪目洞窟遺跡出土の人骨(出雲弥生の森博物館保存)の全ゲノム解析を、国立遺伝学研究所斎藤成也教授(当時)及び国立科学博物館の神澤秀明主幹に依頼して実施しました。古人骨の保存状態が良好だったため、人骨6点から分析に十分なDNAデータを取得することに成功し、その成果が、岡山大学文明動態学研究所発行の「文明動態学」(2026年3月)に査読済みの権威ある学術論文として掲載されました。(著者:神澤秀明、瀧上舞、角田恒雄、濱田竜彦ほか14名) 以下、上記論文をもとに、かいつまんで神澤先生らの研究成果を、関連する研究と合わせてご紹介します。
尚、その後も、弥生時代と思われる猪目人骨の文責研究等が進められており、さらなる成果を期待しています。
1. 【分析人骨の較正年代】
猪目古人骨の分析結果は、最新の分析方法により、最終的に、古墳時代中期~後期のものが1体、古墳時代後期のものが3体、
奈良時代初期が1体、平安末~鎌倉が1体と確定されました 。 2.DNA分析の主要成果
① 縄文人との遺伝的近縁性
統計解析の結果、猪目人骨は、現代の本土日本人の集団内に位置しつつも、そのうち4体は、現代の本土日本人よりも縄文人に遺伝的に近いことをはっきりと示しました。残る2体は縄文的要素は減少しつつも、尚縄文要素に近い傾向を示しました。即ち、古代出雲人は、縄文人のDNAを、相当多く保持していたことを物語っています。
② 遺跡内の遺伝的性質の異なる2グループの共存
極めて注目すべきことに、同一洞窟から遺伝的性質の異なる2集団が検出されました。
【Group A】 4点の人骨 縄文要素が強く、海産資源の摂取割合が高い(21〜34%)。
【Group B】 2点の人骨 縄文要素がやや弱く、海産資源の摂取割合が低い(15〜20%)。
これは、古代出雲において、遺伝的に異なり、異なる生活文化・出自を持つ多様な集団が存在し、同じ場所に埋葬されていたことを 示します。古代出雲が日本海貿易を中心とした古代の交易の中心地であったことを反映しているものと思われます 。
③ 血縁関係
6体の間に2親等以内の近親者はいなかった。ただし、数体につき、3〜4世代程度の遠い血縁関係にある可能性が示唆されており、同一の集団が長期間にわたってこの洞窟を共同墓地として使用していたことが窺えます。
④ 食性(安定同位体分析)
全個体がC3植物・陸生動物と海産資源を組み合わせた食性を持ち、海産資源寄与率は個体によって15〜35%と幅がありました。縄文的要素の強いGroup Aほど海産資源依存度が高く、生業・生活パターンと遺伝的特性が連動している点が注目です。
3.現代日本人との比較 ― 出雲人と薩摩人がDNA的に近い
古代出雲人が、現代の本土日本人よりも縄文祖先成分を多く保持していたことは既に述べたとおりですが、興味深いことに、現代日本人の集団ゲノム研究※では、出雲と薩摩の集団が、関東・近畿の日本人と比べて縄文祖先成分の割合が相対的に高く、互いに遺伝的に近い関係にあることが明らかとなっています。これは両地域が渡来系弥生文化の中心的な拡散ルート(北部九州→近畿・東海への瀬戸内海拡散ルート)から地理的に周辺に位置し、縄文系集団と渡来系集団との混血が相対的になかなか進まなかったことによるものと思われますが、出雲人と薩摩人のDNA的近縁性の謎については、今後の詳細な分析に期待したいところです。
※Timothy Jinam, 斎藤成也他 Journal of Human Genetics 66 (文責 田口哲朗)